我が妹、櫻子が眉を八の字にし、眉間にしわを寄せている。
どうやら先程の不埒な情景は夢の中の出来事であったらしい。櫻子は服を脱いでなどなく、
衣擦れの音は……布団を引き剥がされた音か……嗚呼、寒い。
俺が一瞬身を震わせると、櫻子はクスっと笑い、昨夜から雪が降っていましたからね、と云い
障子の外に目を向ける。道理で寒いわけだ。
寝惚け眼をこすりながら欠伸をする俺を横に、慣れた手つきで、いまだに温もりが残る布団を
畳んでいく櫻子。
「兄さん、朝食が出来ていますので冷めないうちに、早く召し上がってください」
「んっ……」
寝室を出て行く櫻子のあとを追い、居間へとつづく廊下を歩くと、朝飯の良い匂いが漂ってきた。
大空襲―第二次世界大戦末期に本国に対する焼夷弾を用いた大規模爆撃。
死者数は十万人以上と云われている。
俺たちの両親もその大空襲により落命。それは別に当家に限った話ではない。
戦後、大空襲により親を亡くし、孤児になった子供たちは大勢いた。
そんな世界の中で、俺と櫻子は一緒にいられる。唯一の妹を、家族を愛するのは当たり前のことだ。
そうこうしているうちに、櫻子はテーブルに朝食を並び終えたようだ。
米飯の湯気が上がり、顔にかかる。一気に食欲をそそられた。
「じゃあいただこうか」
「あっ兄さん」
櫻子はいただきますと手を合わせた俺の前に、一枚の封書を差し出してきた。
「今朝新聞を取りに行ったときに、一緒に届いてましたよ。それから、今朝早くに謙吾さんからお電話がありました」
「謙吾から? なんて?」
「『最近この地域も失踪者が多いから気を付けろよな!』ですって」
謙吾を真似る櫻子……可愛い。
「全く。そんな事、戦後珍しくも何ともないだろ」
まぁ、俺は常に櫻子が心配だが。
「はっ! やっぱりあいつ、櫻子のことっ!! いくら親友でも許さん渡さん俺の櫻子だ!」
「はいはい、もう食べますよ…いただきます」
櫻子に続いて俺も手を合わせ、食べ始める。
「またお仕事の依頼でしょうか?」
テーブルの隅に置かれた手紙に目をやる。
俺の仕事は、探偵だ。
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